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旭川地方裁判所 昭和59年(ワ)117号 判決 1985年3月15日

原告

武田利雄

被告

佐渡末次

ほか一名

主文

一  原告に対し、

(一)  被告両名は連帯して一、五九八、七九七円及びこれに対する昭和五七年九月二八日以降完済まで年五分の、

(二)  被告樽井は四二、〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年九月二八日以降完済まで年五分の、

各金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余被告両名の負担する。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告両名は連帯して原告に対し、三、四三六、四九七円及びうち三、二八六、四九七円に対する昭和五七年九月二八日以降完済まで年五分の金員を支払う。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言の申立

(被告両名)

請求棄却・訴訟費用原告負担の判決

第二当事者の主張

(原告主張の請求原因)

一  事故の発生

原告は、次の交通事故により受傷した。

(一) 発生日時 昭和五七年九月二八日午後七時一八分頃

(二) 場所 旭川市四条通四丁目の信号機による交通整理の行われている交差点の横断歩道上

(三) 加害車 普通乗用自動車(旭五六す四二七六)

(四) 加害車運転者 被告樽井

(五) 被害者 原告(歩行者)

(六) 態様

原告が信号機の信号に従い横断歩道上を南から北に横断中、信号無視して時速約六〇キロメートルの速度で東から西に進行して来た加害車が衝突。

(七) 原告の受傷

原告は、多発性肋骨骨折、頭部打撲及び挫傷、鎖骨骨折、右大腿筋肉内皮下血腫並びに全身打撲の傷害を受け、事故当日から昭和五七年一二月二九日まで入院治療を受け(入院日数九三日)、昭和五八年一月四日から同年二月一五日まで通院治療を受けた(通院実数三一日)が完治せず、自賠法施行令による後遺障害等級表第一四級に該当する頭痛、右肩部痛、右大腿部痛及び易疲労性の後遺症が残つた。

二  責任原因

(一) 被告樽井

同被告は、無免許で、かつ、酒に酔い、しかも、本件場所道路の法定速度を二〇キロメートル超える時速六〇キロメートルの高速で運転したうえ、前方注視を怠つて信号無視して進行した重大な過失により、本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条による賠償責任がある。

(二) 被告佐渡

同被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による賠償責任がある。

三  損害

原告は、本件事故により次の損害を被つた。

(一) 治療費 五〇六、二七七円

(二) 入院中雑費 五五、八〇〇円

一日当り六〇〇円、九三日間

(三) 付添看護費 二六六、四二〇円

(四) 眼鏡 四二、〇〇〇円

(五) 営業上の損害 二、二一六、〇〇〇円

原告は、食堂、肉店、雑貨店を経営していたところ、本件事故により受傷し、稼働できなくなつたため他人を雇傭して営業を継続しなければならなくなり、そのために、二、二一六、〇〇〇円を出捐した。

(六) 慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

(七) 弁護士費用 三〇〇、〇〇〇円

手数料、謝金各一五〇、〇〇〇円

損害合計 五、三八六、四九七円

四  損害の補填 一、九五〇、〇〇〇円

自賠責保険金より受領。なお、受領金額は、前記各損害のうち弁護士費用を除くその余につき、損害額に応じて按分し充当する。

五  よつて、原告は被告両名に対し、各自三、四三六、四九七円及びうち弁護士費用のうち一五〇、〇〇〇円を除く三、二八六、四九七円に対する本件事故の日の昭和五七年九月二八日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

(被告佐渡の答弁)

原告主張の請求原因一(一)ないし(六)は認める。同一(七)は不知。同二(二)のうち、被告佐渡が加害車を所有していることは認めるが、その余は争う。被告佐渡は、自宅に接続する屋外駐車場に加害車を置いてドアに施錠をし、エンジンキーを自宅茶の間の柱にかけて保管していたところ、たまたま被告佐渡方に遊びに来た被告樽井が焼酎コツプ二杯位を飲みながら被告佐渡と歓談後、口論となり、被告佐渡の知らないうちに無断で右エンジンキーを持ち出して加害車を運転して本件事故を惹起したのであり、被告佐渡と被告樽井との間には雇傭関係その他密接な関係はなく、かつ、日常の右車両の運転及び管理状況等からみて、被告樽井の運転は客観的、外形的にも被告佐渡のためにする運行とは認められないから、被告佐渡は運行供用者とはいえない。原告主張の請求原因三(一)ないし(七)及び同四は不知。

(被告樽井の答弁)

原告主張の請求原因一(一)ないし(七)及び同二(一)は認める。同三(一)ないし(七)及び同四は不知。

第三証拠関係

本件記録中、証拠関係目録記載のとおり

理由

一  原告主張の請求原因一(一)ないし(六)の事実は当事者間に争いがなく、同請求原因一(七)の事実については原告と被告樽井との間においては争いがないところ、原告と被告佐渡との間においては、成立につき当事者間に争いのない甲第二、第三号証、同第六号証の二〇によりこれを認めることができる。

二  そこで、被告らの責任原因について判断する。

(一)  被告樽井について

被告樽井が無免許で酒に酔い加害車を時速約六〇キロメートルの速度で運転し、前方を注視せず、本件事故現場の交差点の信号機による信号を無視して、信号機の信号に従つて横断歩道上を横断中の原告に加害車を衝突させたことは、原告と被告樽井との間において争いがない。右事実によれば、本件事故は被告樽井の前方を注視し、信号機の信号の表示を確認して信号表示に従い進行すべき注意義務を懈怠した一方的過失により本件事故を惹起させたものであることは明らかであるから、同被告は民法七〇九条により原告の被つた全損害を賠償すべき責任がある。

(二)  被告佐渡について

原告と被告佐渡との間において、本件加害車が被告佐渡の所有に属することは当事者間に争いがないところ、同当事者間において成立に争いのない甲第六号証の三一ないし三三、被告樽井及び被告佐渡の各本人尋問の結果(但し、被告佐渡の本人尋問の結果中、後記認定に反する部分を除く)と弁論の全趣旨によれば、被告佐渡と被告樽井との関係、被告樽井が加害車を運転した経緯等は、次のとおりであることが認められ、被告佐渡本人の尋問結果中この認定に反する部分は、前掲各証拠と弁論の全趣旨に照らしてたやすく採用することができず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

1  被告樽井は造園業を営むものであり、昭和五七年七月頃、知人の三木福市を介して被告佐渡と知り合い、当初その三人で造園業をしようとしたが、右三木が川崎市に行つたまま帰らないので、被告両名において造園に使用できる庭石を探す仕事をしていたこと

2  本件事故当日の昭和五七年九月二八日も、被告両名は被告佐渡の運転する加害車で士別市方面の岩尾内ダム付近に造園用庭石を探しに行き、当日夜も被告両名は加害車で日高方面に庭石を探しに行く予定であつたこと

3  被告樽井は自動車運転免許を受けていなかつたが、時々被告佐渡の車両を運転していたことがあり、本件事故当日の午後三時頃岩尾内ダムから被告佐渡の肩書住居に帰つてからも被告佐渡方前路上にエンジンキーを差し込んだままの状態で駐車中の加害車を運転して焼酎を買いに行つていること

4  被告樽井は、本件事故前、右被告佐渡方で被告佐渡と焼酎を飲んでいたが、当日夜日高方面に庭石を探しに行く前にいつたん自分の家に帰つて来ることとし、当日午後五時頃、被告佐渡方前路上に前記同様エンジンキーを差し込んだままで駐車中の加害車を再び運転して被告樽井の肩書住居に帰り、夕食を済ませたのち、午後七時頃、加害車を運転して被告樽井方を出発し、被告佐渡方に向う途中本件事故を発生させたこと

以上の事実が認められる。

右認定の事実関係よりすれば、たとえ被告樽井が被告佐渡に無断で加害車を運転したとしても、被告佐渡は加害車の運行支配を失つたものということはできず、従つて、被告佐渡は加害車の保有者というべきであるから、同被告は自賠法三条により原告が本件事故によつて傷害を受けたことによる損害を賠償する責任がある。なお、原告は、原告が被つた眼鏡の損害についても自賠法三条により賠償責任があるとして主張しているが、自賠法三条はいわゆる物損についての責任を除外しているから、この点の原告の主張は採用できない。

三  次に、原告が本件事故によつて被つた損害について判断する。

(一)  治療費

前掲甲第二、第三号証、同第六号証の二〇と弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故により前示のとおりの傷害を受け、大西病院において治療を受けたが、その治療費は原告主張のとおり五〇六、二七七円であつたことが認められる。

(二)  入院中雑費

原告が本件事故による受傷のため、九三日間入院治療を受けたことは前示のとおりであるところ、入院中雑費としては一日当り六〇〇円とみるのが相当であるから、入院中雑費を五五、八〇〇円とする原告の主張は相当である。

(三)  付添看護費

成立に争いのない甲第四、第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前示入院期間中付添看護者に対し合計二六六、四二〇円を支出したことが認められるところ、原告の前示受傷の部位・程度等から原告が要付添看護の状態にあつたと認められ、また、右支出した看護費用も特段不相当とも認められないので、右支出費用全額を相当因果関係の範囲内とする原告の主張も理由がある。

(四)  眼鏡の破損

成立に争いのない甲第六号証の一二及び原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故により使用中の眼鏡を破損され、新たに四二、〇〇〇円で眼鏡を購入するに至つたことが認められるところ、右眼鏡の購入代金は不相当に高額とは認められないので、右購入代金を損害とする原告の主張も理由がある。

(五)  営業上の損害

成立に争いのない甲第六号証の一四、同号証の二一、同号証の二六、二七及び原告本人尋問の結果によれば、原告は妻と二人で原告肩書住所とその向い側の店舗の二個所において食料品及び雑貨の小売業を営み、また、原告肩書住所隣において旭川畜肉冷蔵株式会社名義で屋号を「広楽」と称する食堂を経営していたこと、原告は本件事故により受傷したため、入院中は勿論のこと退院後も暫くの間仕事をすることができなかつたことが認められるところ、原告は、その間他人を雇傭し、二、二一六、〇〇〇円を出捐した旨主張し、その本人尋問において、甲第八号証記載のとおり、昭和五八年七月一六日から同年一二月末日まで佐藤隆弘を、昭和五七年九月二九日から昭和五八年一二月末日まで高橋光世を、昭和五七年一〇月一日から昭和五八年三月三一日まで宮脇征弘を、昭和五七年一〇月七日から同月一六日まで仲田春子を、昭和五七年一〇月一七日から同月二六日まで杉本郁子を、昭和五七年一〇月二七日から同年一二月末日まで藤丸亜弓を、それぞれ雇入れ、給与として、右佐藤に一、二〇〇、〇〇〇円、右高橋に五七〇、三〇〇円、右宮脇に一、二〇〇、〇〇〇円、右仲田に四〇、〇〇〇円、右杉本に二八、〇〇〇円、右藤丸に一二二、八〇〇円を支払つた旨供述しているが、右佐藤はその雇入れの期間からみても本件事故と相当因果関係があると認めることはできず、また、前掲甲第六号証の二一、同号証の二六及び弁論の全趣旨によれば、右宮脇は原告の娘婿であり、本件事故前から原告が右営業のために雇つていたものであることが認められるので、同人についても本件事故と相当因果関係があるということはできず、また、右仲田、杉本及び藤丸もその雇入れの時期並びに原告本人尋問の結果に照らすと、本件事故と相当因果関係があるかは疑問であるといわなければならないので、結局、その雇入れ時期等からみて本件事故と相当因果関係があると認めるのは右高橋のみといわざるをえず、従つて、原告の営業維持のための支出による損害としては、右高橋に対する五七〇、三〇〇円の限度においてのみ理由があるといわざるをえない。

(六)  慰藉料

前示認定の原告の受傷の部位、程度、入院及び通院期間、後遺症等諸般の事情よりすれば、原告に対する慰藉料の額は原告主張のとおり、二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(七)  損害の補填

そうすると、原告が本件事故によつて被つた右損害の合計額は三、四四〇、七九七円となるところ、原告が本件事故による損害について自賠責保険から一、九五〇、〇〇〇円の給付を受けたことは原告の自認するところであり、弁論の全趣旨よりすれば、右保険金は原告の受傷による損害に対して給付されたものというべきであるから、原告は右各損害の額に按分して充当することを主張しているが、右保険金は右各損害のうち、物損たる眼鏡の損害を除くその余のものにつき、補填されたものというべきである。

従つて、原告は、右損害合計額のうち、眼鏡の損害の四二、〇〇〇円及びその余の損害の一、四〇六、七九七円について未だ補填を受けていないことになる。

(八)  弁護士費用

本件事案の内容、右認定の未補填の損害額等諸般の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係に立つ損害として被告らの負担に帰すべき弁護士費用は一五〇、〇〇〇円が相当である。

四  以上の次第であるから、原告に対し、被告樽井は民法七〇九条により右未補填損害金合計一、四九〇、七九七円に弁護士費用一五〇、〇〇〇円を加算した合計一、六四〇、七九七円及びこれに対する本件事故の日の昭和五七年九月二八日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払義務があり、被告佐渡は自賠法三条により右未補填損害金のうち眼鏡の損害四二、〇〇〇円を除くその余の一、四四八、七九七円に弁護士費用一五〇、〇〇〇円を加算した一、五八八、七九七円及びこれに対する本件事故の日の昭和五七年九月二八日以降完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払義務があるというべく、被告両名の右賠償債務は、物損たる眼鏡の損害の部分を除き、不真正連帯債務の関係にあるから、その部分については被告両名は連帯して支払義務があることになる。

よつて、原告の本訴請求は、右限度において理由があるので認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用につき民訴法九二条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 海保寛)

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